地方自治体における内部統制及び内部統制監査導入の必要性について

 

 地方自治法150条により都道府県と政令指定都市は内部統制の導入が義務付けられている。一方でそれ以外の自治体に関しては努力義務にとどまり、令和4年時点で導入を予定しているのはわずか16市5町村のみである(1,662自治体が導入予定がないと回答)。これはあまりに酷い状況だと言わざるを得ないが、自治体の規模にかかわらず、努力義務を果たそうする自治体が存在することは評価に値するとも言える。なお、私が住む豊橋市は導入していないが、隣接する豊川市は豊橋市より明確に規模が小さいにもかかわらず導入済みである。

 私の考えでは、その組織の目的にかかわらず、どんな組織にも内部統制が必要であり、それに伴う内部統制監査が必要である。特に地方自治体はステークホルダーが多い(市民全員)にもかかわらず、その運営が内向きに閉ざされる傾向があり、オペレーションや意思決定、制度設計に対して牽制機能が効きにくい。そのためこれまで多くの事務ミスや不正により、市民からの信頼が失墜されてきた過去がある。そういった事務ミスや不正を予防し、発見し、是正するために内部統制は非常に優れていることは上場企業に対する金商法監査(内部統制及び内部統制監査の強制)がもたらした上場企業のガバナンス機能向上で実証済みである。

 にもかかわらず、多くの自治体が地方自治法に定められた努力義務を果たさず、内部統制の導入を拒否しているのか。その理由は想像に難くなく、以下三点が考えられる。

 一つ目はリソースの制約、つまり、導入するための専門家がおらず、専門家をアサインする予算も割かれにくいこと。二つ目はその専門家ですらプラクティスが蓄積されていないため導入が手さぐりになっていること、三つ目は行政の人間も市民も内部統制に関して無知なケースが多く、法的拘束力がない以上、積極的に導入する動きが広がらないこと。

 私は三つ目に関して、特に問題意識を感じる。DXが叫ばれる中、いまだにFAXやフロッピーといった時代遅れなテクノロジーを使用し、非効率的なオペレーションがはびこるのは内部統制と内部統制監査からの有用なフィードバックが制度設計や意思決定に活かされてないからではないか。

 内部統制と内部統制監査がないために自治体の現場で何が起こっているかを考えたい。私の結論は行政サービス、市民サービスの遅延、満足度の低下だ。自治体の業務には多くの審査が必要となる。申請書類の審査、入札内容の審査等である。これらの審査がとても遅いのは説明するまでもないが、原因はマンパワーの不足以外に不必要な審査項目や無駄なプロセスが多いからと考えられる。

 申請内容を簡素化し、無駄なプロセス(印鑑ラリー等)要件を満たしているか事務的なチェックだけで審査を通すことができるはずなのだ。しかし、そうなりえないのはまず第一に行政の業務プロセスに第三者の目が入らず、効率化されたり、改善する機会がないからだ。もう一つは監査機能がほぼないため事案をスピーディーに通してしまいミスや不正が行われると取り返しがつかないとの考えから厳密性を担保するために保守的な制度設計にならざるを得ないと判断されるからだ。

 これらは監査手続きで行われる準拠性テストと実証性テストでほとんど全て解決できると考える。監査人からの適切なフィードバックと検証の担保により、市民にとって満足度の高い制度設計が可能となり得る。もちろん、監査の牽制機能により、行政の腐敗や不正の排除が期待できるのは言うまでもない。

 以上が私の地方自治体への内部統制及び内部統制監査の導入の必要性に関する初期的な見解であり、監査機能の拡充として内部統制監査を導入した場合に見込める効果を述べた。次回は現在の地方自治体の監査制度について、豊橋市を例に挙げて学習し、現行の監査を理解するとともに、私が知る(主に株式会社における)欧米流の監査機能と比較することでリスクマネジメントとガバナナンスがどれほど機能しているかを考察したい。

 (文献等)

総務省 – 地方公共団体における内部統制制度に係る調査結果

総務省 – 現行の地方公共団体の監査機能について

「地方公共団体における内部統制・監査に関する研究会」第1回議事概要

地方公共団体における内部統制制度の 導入・実施ガイドライン

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