円キャリートレードとは?

「令和のブラックマンデーの原因は何ですか?」とお客様から質問を受けることがありました。こう答えました「私は円キャリートレードの巻き返しが大きいと思う。日銀がほぼ四半世紀ぶりに金融政策を変更したというのが海外機関投資家にとってインパクトが大きかったと思う」と。そうすると「円キャリーって何ですか?」と聞かれたので私の知る範囲の知識で現在起こっている現象を説明します。

「円キャリー」とは単純に言えば「円を売ってドルを買うこと」です。一般投資家にとっては「FXでドルを買う」くらいの話に使われることが多いと思いますが、機関投資家の円キャリーはもっとダイナミックで経済全体に影響を与えます。

欧米の機関投資家やヘッジファンドは、日本の金融機関(投資銀行、商業銀行)に対して巨大な与信があります。それを使って超低金利で円を資金調達をします。その規模は場合によっては1000億円単位です。その円をそのままドルに換えてアメリカの債券や株を買う、あるいは日本株を買ってその株を担保にDOW先物や日本株ADRを証拠金取引する等のハイリスクなポジションをとることもあるでしょう。

ウォーレン・バフェット=バークシャーは、円安を見越して2019年から円建て社債を1兆円以上発行しています。金利は超低金利ですが、この取引で大量の円を手にしました。これによりアメリカ本国で資金需要に応えることが出来、アメリカの高い金利で資金調達を行う必要性が圧縮されたはずです。既に巨大すぎるキャッシュポジションを持っているのになぜ借金するのか?というと、会計上現金とみなされる銀行預金や短期米国債に換えるだけで5%の金利が付くのです。これを小口化した結果、受け取れるのがFXのスワップ金利ですね。

具体的な取引はさておき、安い円で借金して日本を含む世界各国の金融商品に投資する行為を円キャリーと総称します。結果は世界各国の金融商品に投資するので同じなのですが、ドルから始めると高い金利を払う必要があるのに対して日本円から始めると低金利で済むのです。

この「歪み」に群がった海外機関投資家のポジションが積みあがっていった結果がここ数年の円安です。海外機関投資家が日本の金融機関から借金した円を売ってドルを買ったのです。

しかし、「歪み」は永遠に続くことはありません。日本の金利が上がってしまえば終わるのです。日銀が世界で最も動きが鈍い中央銀行であることは間違いありません。世界各国が利下げを議論している中で周回遅れの利上げを議論しているのですから。なので、海外のように1年で政策金利が3%も4%もあがるなんてあり得ないことは日本人ならわかるのですが、外国人にはそんなこと理解できません。欧米と同じ感覚で「金利はあっという間に上がってしまう」との不安に駆られた海外投資家たちは借金返済のための円を今のうちに確保しようとしました。

円を確保するには証拠金取引の担保に入れている日本株を売らなければなりません。もちろん、証拠金取引をまずは解消しなければなりません。これを一斉に海外投資家が行いました。その結果が令和のブラックマンデーだと考えております。

今後どうなるか?日銀はこのハードランディングな状況を見てしばらくは利上げしないでしょう。同じことをすれば政権を脅かしかねませんので、官邸が許容できないと思います。半年~1年はないと思います。

しかし、政策金利1%を目安に利上げが不可避なのも事実。リスクを認識した海外機関投資家はキャリートレードから徐々に手を引くでしょう。その結果、円安は解消され株も、新しいテーマがなければ今までのような上がり方はしないのではないかもしれません。