「真」の債務上限問題と積極財政に飽きてきたアメリカ人と

友達と「最も懸念している世界経済のトピックは?」というテーマでディスカッションしたのですが、私はアメリカの債務上限問題を挙げました。

「え?大統領選挙じゃなくて?債務上限問題って毎年やってる奴で結局解決しちゃう話では?」と友人に言われたのですが、私が着目しているのは債務上限問題の「質変化」とそれに伴う積極財政に対するアメリカ人の姿勢変化です。

「普通」のアメリカ人の最大の関心事はインフレ退治だと考えるが、これは予想外に長引いている。2024年8月現在、CPIは少し下がってきているがそれは金融市場の参加者の基準であって庶民からすれば生活必需品や家賃は全く下がっていないとの声を在米の友人からは聞く。インフレの原因は間違いなくコロナ前後の給付金だと考える。

アメリカではバイデン政権のもと、一人当たり約35万円のコロナ給付金をほぼ全国民に配った。日本では10万円を約1億2000万人だが、アメリカでは3倍以上の金額を約3倍の人々に配ったことになる。ざっくりした計算で10倍だ。当時の予算が6兆ドルだったが、日本は100兆円なので予算規模での比較では、日本もアメリカとそん色のない財政支出とも見える。

予算全体でみるとどうだろうか、日本のコロナ関連補正予算は77兆円だが、約半額の30兆円を繰り越しているので大半を使い切れていない。一方で2兆ドルといわれるアメリカのコロナ予算が使いきれず繰り越されたという話は聞かない。

脱線したが、とにかく好景気も相まってアメリカのインフレは凄い。政府がインフレをコントロールできる手段は金融を引き締めるか、予算を小さくするかの2択だ。アメリカの金融引き締めはピークに達しており、今は利下げの議論がなされているので、これ以上の引き締めはありえない。だとすれば、アメリカ人有権者の矛先は予算に向かうのではないか?つまり、「バラマキはもういい」と。実際、トランプを遥かに上回る過去最大の積極財政をやったバイデン大統領は全く支持されず大統領選からの撤退に追い込まれた(もちろん高齢問題もあるが)。の有権者の姿勢変化を受けて、大統領選では共和党、民主党ともに財政健全化を公約に掲げている。

債務上限問題の話に戻ると、これまでの債務上限問題は政争の具であり、ねじれた議会でのプロレスが長引いてテクニカルデフォルトを起こすことはあっても、予算自体が成立しないことはなかった。これからもそれはそうだろう。

最大の懸念は、「財政健全化を求める有権者への迎合と債務上限問題を意識した行政府は緊縮的な予算案を作成せざるを得ない」という結果だ。つまり、次の大統領が誰であれアメリカは緊縮財政に入ると思われる。財政政策は金融政策より実体経済に影響を与えやすいと考える。個人や企業、自治体の直接的な財務にインパクトを与えるからだ。

ただでさえアメリカはこれからリセッションに入ると予想されているのにそこに緊縮財政が加われば深刻な不況に陥る可能性が高い。アメリカの不況の影響を最も受けるのは日本である。